Arisa Kawabe

statement
一般に人は大切な記憶であっても、時とともにそれを失っていってしまいます。
しかし、(身体を精神を入れる器であると考えるなら)身体という器から記憶が抜け落ちてしまっても「私」という存在は、記憶となった全ての過去から作られ、この世界に立ち上がっているのです。
私たちは失われた記憶を想起することで、「私」の物語を知り、「私」を認識することができます。
全体としての世界は、大きな歴史叙述の奥で、このような「私」の小さな物語の集積によって成り立っています。
私は、一人の小さな物語をきっかけにして、「私」の物語に結びついた瞬間、少しだけ世界を認識できたように感じるのです。
2016.9.19
私はこれまで抜け殻や骨をテーマに作品を制作してきました。
これらのテーマは、家族の火葬に立ち会い、灰となって出てきた骨を見たとき、
これまで存在していたはずの一人の<人>が、骨という殻から抜け落ちてしまったように感じた経験から始まっています。
<人>が抜け落ちた抜け殻は、住む人を失った廃墟のように、独特の美しさを持ちます。それは、過去の時間や記憶を内包しているからかもしれません。
現在は衣服を<人>の抜け殻と捉え、衣服をモチーフに作品を制作しています。
衣服を<人>の抜け殻と捉えるようになったのは、家族の死後、残された衣服が亡くなった家族の身体の身代わりのように感じられたこと、また私にとって家族との記憶の断片として重要な役割を担っていると感じたことがきっかけとなっています。
私は過去の時間や記憶を形象化するために、作品を制作しているのかもしれません。
2014.07.25